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大学概要
2019年度東北文化学園大学・東北文化学園大学大学院
学長式辞

新型コロナウイルス感染症は、未だ収束の気配を見せておりません。世界保健機関からパンデミック宣言も出されました。医療や福祉を志す多くの学生を育成する本学としましては、学生の健康を守ること、感染拡大の抑制に最善の方策を講じることを第一義に考え、誠に残念ではありますが、2019年度学位記授与式式典を中止いたしました。なにとぞ皆さんのご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。 

この度学位を授与された者は、医療福祉学部280名、総合政策学部66名、科学技術学部95名、計441名です。また、大学院にて修士の学位を授与された者は14名です。卒業する皆さんは、本学にとって18回目の卒業生となります。昨年6月には、私たちの大学は開学20周年を迎え、記念式典をこの国見の丘で執り行いました。みなさんは、新しい建学の精神「輝ける者を育む」のもとでの最初の卒業生となります。卒業に至る皆さんの努力に対し心から敬意を表し、ご卒業をお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで支えてくださった保護者の方々、皆さんと辛苦を共にし、教育に勤しんでくださった教職員の方々に、心から感謝し、お喜び申し上げたいと思います。

 二十四節気は、中国から伝わり日本に定着した、1年を24等分した季節を表す言葉です。昼が最も短い冬至、最も長い夏至、ほぼ昼と夜の長さが同じ春分、秋分は、皆二十四節気にある言葉です。12月の小寒、大寒に続いて1月が立春、雨水となります。今年の雨水は、グレゴリア暦で2月19日から始まりました。雨水とは寒かった冬、雪が降り続いた冬が終わり、春を告げる初めての雨が降る頃を表し、古来農耕の準備を始める時期とされて来ました。ところが今年は、全くと言って良いほど雪は降りませんでした。冬の間降るのは雨ばかりでした。こんな冬は、わたくしの人生で初めての事です。おかげで庭の福寿草は例年より2週間も早く3月2日に咲きました。宮城県の桜の開花予想も3月24日と例年より1週間以上早く、翁草の、綿毛に包まれたいかにも暖かそうな芽も、もう地上に顔を出しています。昨年夏の猛暑を今年もまた予想させるような、尋常ではない冬の気候でした。気象庁の発表では、今年の冬は平均気温より2.2度高く、暖冬であったということです。

地球史上氷河期は5回あり、今私たちは200万年前からはじまり、1万2千年前まで続いた5番目の氷河期、第四紀氷河期の後の比較的温暖な気候の間氷期にいます。この第四紀氷河期にヒト属は生まれ、25万年前にホモ・ネアンデルターレンシスとホモ・サピエンスが分枝し、最終的にホモ・サピエンスが生き残りました。現在の人間の科学的位置づけは、ホモ・サピエンス・サピエンスとなります。人間はアフリカの大地溝帯で進化を遂げ、6万年前にアフリカを出て、アラビア半島を経てイランに達し、その後4万年前からヨーロッパ、オーストラリア、北アジア、日本、さらにベーリング陸橋を渡り、1万5千年前にアメリカ大陸に進出したと考えられています。4万年前、ヨーロッパ大陸にはすでにネアンデルタール人が居住しており、両者が出会い、交雑した結果、私たちの遺伝子の中には、ネアンデルタール人の遺伝子が4%程度含まれています。今はまだ解明されていませんが、人間が生き残るために、ネアンデルタール人の遺伝子が決定的に重要な役割を担っていた可能性があります。

両者の違いの一つに「旅する力」の差が挙げられています。ネアンデルタール人は、その行動範囲はほとんどヨーロッパに限られていましたが、人間は中東に進出してから4万年の間に、南アメリカ大陸の先端に至るまで地球上のあらゆる土地を支配しました。人間の大きな特徴の一つに未知の世界へのたゆまぬ好奇心があり、それが私たちを「旅する人間」として特徴づけています。人間は地球上のあらゆる未開の地へ進出し、今後は宇宙を目指す旅が始まろうとしています。その先駆けとして、今年の末に「はやぶさ2」が小惑星リュウグウの岩石を採取し、地球に帰還する予定です。「旅する心」、すなわち好奇心、冒険心、そして幸せの「青い鳥」を求める心が、私たち人間の歴史を作り上げてきたと言っても過言ではありません。おのれの命を賭して、山の彼方にある理想郷、海の彼方の見えざる楽園に向かって果敢に挑戦し続けるのが私たちなのです。

 その結果、私たちが今生活している社会や文明ができあがりました。まさに「旅する人間」の輝かしくも目覚ましい成果だと思います。しかし、物事には必ず正の側面と負の側面があります。今私たちが享受している正の輝かしい成果の裏には、負の様々な側面が隠されています。温暖化という地球レベルの現象はまさにその中で一番深刻な問題です。地球温暖化は、18世紀に始まる産業革命に端を発し、二酸化炭素、メタンなどの温室効果ガスが大気中に蓄積することにより起きます。地球史の流れは次の氷河期すなわち寒冷化に向けて動いているにもかかわらず、地球温暖化現象がその過程を大きく変えようとしています。しかし、それに対する人間たちの対応はまちまちです。地球温暖化は「でっち上げ」と主張してはばからない大国の大統領がいます。デンマーク領グリーンランドの地下に眠る資源を巡ってグリーンランドを買収しようとする国々があります。化石燃料を大量に使用する火力発電所を海外に輸出しようとしている国があり、国連気候変動枠組み条約締結会議(COP25)で、その国に対し化石賞が授与されました。その国とは私たちの国です。温度が摂氏1度上がっただけで、地球上の多くの動植物は人知れず絶滅の危機を迎えます。過剰な二酸化炭素は海水に容易に溶け込み、炭酸となりその酸性化を招き、ここでもまた海に住む様々な生物の絶滅をもたらします。森林の乾燥化は森林火災の原因になります。それはまた大量の二酸化炭素の排出と森林で生きる動物たちや光合成をおこなう植物・細菌の消失という悪循環につながります。

 私は卒業する皆さんに、どこまでも遠くに「旅する人間」であって欲しいと心から願っています。それこそがまさに人間らしい営みだからです。しかし、「旅する人間」の負の側面もお話ししました。それを克服するには、地球上のあらゆる生命の多様性を尊重する共生社会の実現に向けた、一人一人の敏感な感性と努力が求められています。あらゆる「いのち」はかけがえのない、この上もなく貴重なものです。このことを学位記授与にあたり、皆さんに改めてお伝えし、はなむけの言葉にいたしたいと思います。

それでは、今日この良き日を心から祝福するとともに、皆さんの人生が幸多いものとならんことを祈りつつ、式辞とさせていただきます。
 本日は、誠におめでとうございます。

2020年3月19日
東北文化学園大学
学長  土屋  滋