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総合政策学部 総合政策学科

救助犬や盲導犬は軍用犬から生まれた

2020.3.31
総合政策学部教授 岡 惠介

 近年、災害救助犬や警察犬などのいわゆる使役犬の研究に手を染めてきた。調べていくうちに、どうやらこれらの犬の嗅覚や恐怖感を与える咆哮、強い噛みなどの優れた能力を人の役に立たせる犬の訓練のルーツは、軍用犬の育成にあるということがわかってきた。
 軍用犬といえば一般には、軍関係の施設の警備にあたり、夜間でも優れた嗅覚で不審者を発見・撃退する歩哨・警備といった役割が想像されるだろうか。あるいは、戦場を駆け回り、本部の指令を前線に伝える伝令が思い浮かぶだろうか。他にも斥候、つまり前線で敵兵の居場所を優れた臭覚で察知し、味方に知らせるといった役割を担当する軍用犬もいた。今日ではこうした役割は、IT、デジタル無線などの発達で犬の手を借りなくてもよくなっていると思われるかもしれない。
 しかし軍用犬は、実はこれ以外の様々な役割を担っていた。例えば負傷兵の捜索である。
 負傷兵の捜索を行う犬は衛生犬と呼ばれた。もともと衛生犬は、アルプスの雪山救助犬のように、消毒薬などの医療キットを身につけ、負傷兵を自軍まで安全に誘導するという困難な役割を負わされていた。この衛生犬の仕事を効率化したのは、第一次世界大戦下のドイツ軍だった。
ドイツは自国産のシェパードを用い、負傷兵を捜索し、見つけたらその帽子を脱がせて味方の衛生兵の元に持ち帰り(帽子がない場合はそのまま戻る)、その衛生兵を伴って再びその負傷兵のもとへ誘うことだけに、衛生犬の仕事を整理した。帽子にはその負傷兵の所属や氏名などの属性が記されていたのであろう。
 これこそ救助犬の原型である。昨年、災害救助犬の資格試験に合格した我が家のルカやビアンカの捜索も基本的には同じである。ただ、災害救助犬の場合、捜索の際にはハンドラーが近い場所に同行しているので、要救助者を発見した場合に犬はハンドラーの元に戻らず、その場で吠えて発見を知らせる。より迅速な救助を行うための改良である。
 なお、当初の衛生犬が行っていた負傷兵を自軍まで安全に誘導する訓練を応用したのが、戦争で毒ガスや砲弾の破片で失明した負傷兵の戦後の社会復帰を助けた盲導犬である。今は障がい者福祉の象徴のような、愛と平和のイメージの盲導犬も、また軍用犬の訓練の中から生まれた存在であった。

『負傷兵の帽子をとる衛生犬(負傷兵捜索犬)』写真の引用:「軍用犬ノ飼育ト訓練」陸軍歩兵學校将校集会所(昭和三年)