社会学・福祉学研究

社会学・福祉学研究からのアプローチ

子どもたちが自分らしく、 健やかに成長するために ソーシャルワーカーの果たす役割

鑑さやか 准教授
現代社会学部 現代社会学科
鑑さやか 准教授
1989年に国連で採択された児童の権利に関する条約に日本も批准しています。この条約では「子どもにも自分の考えがあり、想いがあり、それを伝える権利がある」と定められ、世界共通の認識となりました。日本で子ども虐待の問題が注目されるようになったのもその頃です。現代社会学科の鑑さやか先生は、「子ども家庭福祉」を研究領域とし、「一人ひとりの子どもがのびのびと自分らしく、健やかに成長するために、子どもの育ちだけでなく親としての『親育ち』を支援するため」に地域の保育士と共同研究を行っています。

子ども家庭福祉の領域は「子ども+親」

「私が大学で学んだ頃、子どもに関する領域は児童福祉という科目でした。高齢者福祉、障害者福祉の場合、対象になる人に直接アプローチしながら問題解決をすることが少なくありませんが、子どもの場合には、問題の背景に親の問題が大きく関係していることが少なくありません。そこで、子どもの問題を解決するためには家庭も含めて見ていく必要があるということで現代では『子ども・家庭福祉』と表現に変わっています」と鑑先生。高齢者や障害者の場合も家族を含めた支援は必要ですが、子どもの場合は、不登校の背景に夫婦間の不和があったり、いじめの加害者の背景に貧困の問題があったり、子どもの虐待の背景に地域からの孤立や育児のストレス、経済的な不安があるケースが多くあります。子どもをケアしながら、同時に親の問題も解決していくことで、親も子も安心して生活できる環境を整えていこうというのが「子ども・家庭福祉」の考え方なのです。



鑑先生の研究室にある「子ども・家庭」に関する様々な書籍

研究の柱は「虐待の予防」

「子ども・家庭福祉」が対象とする子どもの年齢は、0歳から18歳と非常に幅広く、0歳の子どもが求めている支援は子育て支援や親の支援が中心で、思春期になると、いじめや不登校、非行の問題が多くなり、年齢によって対応すべきことが大きく変わってきます。
「私が関わっているのは、その中でも子育て支援や虐待の予防です。虐待の対応については発生予防から起きている虐待への早期対応、その後のケア、親子分離をした場合にはその後の親子の再統合というところまでと様々なプロセスに関わることになりますが、私は特に最初の虐待の予防というところを自分の研究の柱にしています」。鑑先生が研究のフィールドにしているのは保育所です。その理由は、保育所では様々な家庭のお子さんとご家族が利用しており、毎日必ず子どもと保護者と関わり、話をし、様子を見ることができる場だから。

ハイリスク要因を理解し、「気づく力」を発揮

「そこで保育士さんが『あれ、おかしいな。大丈夫かな?お子さんの様子が最近ちょっと落ち着かなくなってきているな?』『お母さんがイライラしているけど大丈夫かな?』など、何気ないことに気づくことが多いんです。話をしたり、様子を観察することはできますが、保育士は虐待対応のプロではないので対応に悩むことも少なくありません。でもその時に適切に対応しないと深刻な問題に発展する事態になってしまうこともあるんです。そこで私は保育士と一緒に、そんな時、どう対処したらいいのかを研究しています」。
まず大事なのは「気づく力」。厚生労働省で提示している虐待のハイリスク要因としては、親の精神疾患や若年層の妊娠、地域からの孤立とか夫婦間不和、経済的困難などがありますが、そういったものをあらかじめ知っておくことで、子どもやお母さん、お父さんの変化に気づき、介入することができます。鑑先生は、そうした視点を伝え、「そうなった場合、どうしたらいいのか」やコミュニケーションが取りにくいと感じる保護者への心構え、対応のヒントも伝えていくのだそうです。
保育士という専門的な視点を持ちながらも、「親なのに」という否定的見方をするのではなく、「困っているのであればどのように関わっていけば良いか?」というふうに視点や捉え方を変える必要もあります。児童相談所や市町村、その他の専門機関につなぎ連携することで解決できることもあるので、家族の抱える問題に気がつき、保育所だけで抱え込まず、気がついた時には他のところにつなげていけることも大切です。




「あれ、おかしいな?」と気づくことと保護者の背景を理解することが大事。

保育士自身の支援も重要

最近は、統合保育など保育所でも発達障害のお子さんを受け入れています。その場合は保育士を多めに配置する制度がありますが、それだけでは手が回らない状況があったり、保育現場では他にも様々な課題に対応しています。
「保育士自身が疲弊してしまうという問題もあり、第一線で頑張っていた方が休職や退職したりするケースも少なくありません。ずっとその子どもや保護者と関わり続けていくためにも、保育士さんには心身ともに元気でいて欲しいという想いもあって保育士の支援というところにも取り組んできました」と話す鑑先生は、社会福祉士の国家資格を持っています。社会福祉士は、困っている人の話を聞き、「なぜその問題が起こっているのか」と、その人や家族を取り巻く環境を理解しながら環境に働きかけ、問題を解決していくという役割を担っています。
「例えば、共働きの夫婦が子どもを預けられる人や場所がないという問題があったとします。これは家族の問題ではなくて周りの環境です。この問題は保育所を利用することで解決することができますが、保育所に空きがなく利用できないこともあります。その場合には、「保育ママ」など利用できる制度やサービスの情報を提供するなど、環境を調整しながら生じている問題を解決していきます。困っている人と今ある社会資源とをつなぎながら、その人の問題を解決していくというのが社会福祉士の役割です。もちろん、地域に社会資源がない場合には新たに創り出すことも行っています」。鑑先生は、そうした視点で、保育士さんだけが抱え込まなくても良いように一緒に課題や問題に向き合い、必要な支援、助言を行っています。

社会福祉士に必要な資質とは

子どもと家庭に関わる問題、高齢者福祉などの場面でも課題は多く、社会福祉士の果たす役割はとても重要で多岐にわたります。そんな社会福祉士に最も必要とされることはどんなことでしょうか。
「やっぱり人が好きっていうことですね。それから人と適切な距離感を持てること。子どもや家族、高齢者など対象となる人との適切な距離感を持てるというのがすごく大切。支援を必要とする人たちの置かれている状況を俯瞰しながら把握し、冷静に分析していく視点も必要になってきますね」。鑑先生は、さらに「人が好き」という深い意味についてこんなふうにも話しています。
「『子どもが好き!だから子どもと関わりたい!』というだけならボランティアでもよく、必ずしも専門職じゃなくても関わることはできます。問題を解決するために、さまざまな機関や施設、専門職が働きかけていますが、社会福祉士は連携の要としての重要な役割を担っています。時には価値観が違う機関と関わることもあり、ぶつかることもあります。『人が好き』というのは支援を必要としている一人ひとりの個性や背景を尊重し、真摯に向き合う姿勢につながりますし、異なる立場の専門職と効果的に情報を共有し、協力するためにも『人と関わる』ということ、その力は大切なのかなと思います」。



「子ども食堂など、地域の中の交流の場を通しての支援に興味がりますね」と話す鑑先生。