経済学・法律学研究

経済学・法律学研究からのアプローチ

人生に必ず役立つ「マーケティング思考」

鄭 舜玉(チョン スンオク)准教授
経営法学部 経営法学科
鄭 舜玉 准教授

東北文化学園大学の経営法学部では、「経済」「経営」「法学」、そして地域活性や国際分析といった関連領域がそれぞれ独立するのではなく、ワンパッケージで学べることが特徴です。各専門分野を深く、そして横断的に身に付けるために、それぞれの分野で活躍する講師陣による強力な布陣で学びの基盤を支えています。
経営学の中でもマーケティングのエキスパートである鄭 舜玉先生に、ご自身の研究テーマ、そして研究を通して目指す理想的な社会経済のあり方についてお話を伺いました。

消費者第一の「関係性マーケティング」が現代経済の鍵

マーケティングを一言でいうと、「製品・サービスが売れる仕組みを作ること」。大きく分けて、国の政策や流通など国家単位で行う「マクロマーケティング」と、企業や組織単位で行う「ミクロマーケティング」とがあります。鄭先生の専門とするミクロマーケティングの学問領域は幅広いため、時代に沿って様々な研究を行ってきたといいます。
ミクロマーケティングの中でも、鄭先生がメインテーマとしてきたのは、企業と顧客との良好な関係づくりを目的とした「関係性(リレーションシップ)マーケティング」に関わる研究です。「関係性マーケティング」では、自社製品やサービスの魅力を伝えて新規顧客を獲得するだけでなく、その顧客をリピーターとして維持し続けるシステムを作ることが重要です。
「高度成長の時代には、企業が新たな製品やサービスを作れば次から次へと売れていました。つまり新規顧客獲得が容易です。しかし、市場が成熟してくると、消費者のほとんどは製品やサービスを経験していて、企業としては既存顧客の維持はもちろん、新規顧客を獲得することが重要な課題になります」
しかし、鄭先生は「関係性マーケティング」において、企業が顧客を継続的に維持(拘束)するための「リテンションマーケティング」には反対の立場を取っています。
「例えば入会金や解約違約金などで顧客を繋ぎ止める手法がありますが、これもリテンションマーケティングの一つで、私は、本来は不要なものだと思います。マーケティングというのは、企業が消費者を満足させること、その利益で企業がまた別の新たな価値を消費者に提供することが基本だと思うのです。だからこそ、常に消費者の立場で研究することが、私のテーマです」
消費者と企業との「ウィン・ウィンな関係」を作ることが、理想的な経済のあり方だと鄭先生は語ります。

情報格差をなくす 「マーケティング・コンシェルジュ・システム」

「消費者の立場に立つ」という考えのもと、鄭先生が2013年に発表した論文『合理的消費行動支援システムの構築』の中で提案したビジネスモデルが、「マーケティング・コンシェルジュ・システム」です。これは、ホテルの一流コンシェルジュのように、利用者それぞれのライフスタイルやニーズにピッタリと合った製品・サービスを提案してくれるという画期的なシステムのアイデアです。個人の検索履歴や購買履歴、登録情報といったデータを、当該システムが自動的に集積し、ビッグデータとして活用することで、利用者は時間的・心理的なエネルギーや無駄なコストを掛けることなく、自身に最適化された情報を容易に得ることができます。
「現代では情報を持っている人ほど有利な条件で商品を購入・利用できるという“情報格差”が生じています。そうした問題を根本的に解決し、健全な企業間競争が行われる世界を実現したいのです」と、このビジネスモデルに込めた思いを話してくださいました。

「“私”が主人公になるストーリー」で地域活性を

これまでに国内各地の教育機関で教鞭を執り、東北文化学園大学は4つ目の大学となる鄭先生。各地で観光を通した地域経済の活性化に関する研究も行ってきました。公私に渡り、国内外の様々な観光地を巡る中で、観光業においても「ストーリーテリング」の要素が重要であると痛感したそうです。それは一体どのようなものでしょうか。
「例えばヨーロッパなどを旅行すると、土地の歴史や特徴を紹介する魅力的なストーリー(物語)があり、ストーリーに関連したグッズや観光商品などが用意されています。これは比較的新しいマーケティング手法として、西洋や韓国では10年ほど前から研究されていますが、日本ではストーリーを観光に結びつけることがまだそれほど多くありません。ストーリーテリングを使ったコンテンツも大きく2種類あって、1つは“私”がその町の史実を見聞きし、“観客”として体験するストーリー。そしてもう1つは、“私”が“主人公”となって体験するストーリーがあります。例えば、イタリアのトレビの泉でコインを投げるとかがそう。より強く印象に残り、『もう一度行きたい』と思うのは後者で、『自分自身が主人公になれた場所』なのです」
常に次代のサービスを模索する鄭先生の視点は、ワクワクするような発想に満ちています。

マーケティング力を強化し、より豊かな人生に

彩り豊かで幅広い研究テーマに加えて、明快かつユーモア溢れる話術は、鄭先生の大きな魅力です。鄭先生が大学での講義を通して学生たちに伝えたいことは、どのようなことでしょうか。
「私がいつも学生に言うのは、“クリティカル・シンキング(批判的思考)をしなさい”ということ。柔軟な発想を持ち、常に目の前のものが本当に正しいのか、改善の余地はないかと問い続けること。あらゆる論説は時代によって変わるものだし、専門書だって鵜呑みにしてはいけない。疑うのではなく興味を持って、新たなアイデアを探し続けることが大切です。私はその姿勢を教えるのが、大学であると思っています」と鄭先生。経営法学部の強みについて、次のように話してくださいました。
「経営学で学んだ知識を効率よく生かすためには、関連法律の知識の習得がとても役に立つ。両方を学べる経営法学部は、シナジー(相乗効果)が発揮されるはずで、これは大きなメリットだと思います」
そして「マーケティング思考」は、「ビジネスをしない個人にも必要なもの」と強く続けます。
「例えば誰かを好きになったとして、その人を振り向かせるためには好みをリサーチして作戦を立てますよね(笑)。就職活動でも、その会社が望む人材を調べ、自分をアピールするストーリーテリングを用意して面接に臨みます。マーケティングは、人生のあらゆる場面で役立つし、誰にとっても大切なのです。皆さん、学ばなければもったいないですよ!」