工学研究

工学研究からのアプローチ

今後ますます期待が高まる 「いのちを支えるエンジニア」という仕事

相澤 康弘 教授
工学部 臨床工学科
相澤 康弘  教授


新型コロナウイルス感染症拡大で体外式膜型人工肺「ECMO」が注目されましたが、現代の医療では工学的な医療機器があらゆる場面で不可欠であり、常に進化を続けています。それに伴い、「いのちを支えるエンジニア」とも称される臨床工学技士の果たす役割も拡大、深化しています。臨床工学科の相澤康弘先生は、医療機器や病院設備の安全管理、医療機器の電波による影響、医療機器操作ミスによる事故対策など幅広い研究と臨床工学技士の育成に取り組まれています。

工学的知識で医療の安全を守る、臨床工学技士

工学的知識で医療の安全を守る、臨床工学技士
「私が担当しているのは医療機器の安全管理学です。医療機器や病院の設備の人体への影響や安全性はどうなのか、常にそれを維持するためにはどうすべきか、非常時にはどう備えるかなど様々な視点で管理する必要があります。これらを担うのが臨床工学技士なんです」と話す相澤先生。
その中で、最近、相談を受けることが多い医療機器の問題に「医療の電波」があると言います。「心電図モニタなどの機器は有線ではなく、無線で飛ばします。私たちの周りの様々な機器が無線を使うため、混信の問題が出てきています。国家試験問題にも出ましたが、クレーン車のリモコンと医用テレメータという心電図を飛ばす周波数が重複していることがわかり、医療の現場では混信の可能性があるので使用制限するということもありました」と相澤先生。実際は、医用テレメータの送信機の出力が非常に小さいため、受信する装置のアンテナ配線を病棟に張り巡らすことで解決できます。工学的な専門知識があれば、混信の原因を突き止め、解決策を導き出すことができるのです。


携帯電話やWi-Fiルーター、Bluetoothなどから出る電磁波を測定する機器 

常に変化する情報と医療現場をつなぐ仕事

研究が進んだことで使用制限の緩和が進んだものもあります。
「一時期は電車内での携帯電話の使用は、心臓のペースメーカなどに影響すると電源を切るようにと言われていましたが、携帯電話の受信感度が良いと電波の出力が小さくなって医療機器に与える影響が極めて小さいとことがわかって、病院などでの携帯電話の使用の規制を緩和してはという動きが出ています。」
一方で、病院内の医療機器の近くに携帯電話を置いた場合には誤作動する可能性もあり、今後、病院内の連絡ツールがPHSからスマートフォンへの切り替えが進んだ場合の規制方法については課題もあり、病院ごとに電波の強弱を調べるなど、対策を進めているそうです。
「総務省ではペースメーカの装着部から携帯電話は15cm以上離してくださいとなっていますが、実験結果を見ると数センチで誤動作をした事例があるだけ。ペースメーカ側でも一定の周波数の電波を受信した場合には受け付けないか、誤動作しないように対策しています。ペースメーカに通信機能もあり、生体内の情報検出や医療機関との情報伝達も容易になっています。そして、多くの医療機器は電磁的な両立性を図るEMC対策をしています。ただ、現場では10〜20年前の機器もたくさん使われているので、100%の対策が組まれたかは不明なところです」と相澤先生。


植込み式のペースメーカ

工学的視点で、災害に備える

平成16年に宮城県では99%の確率で大地震が発生すると発表されました。それを受けて、相澤先生が所属する宮城県臨床工学技士会では、宮城県機器対策課に相談して勉強会を実施したと言います
「そこで病院の対策について質問したところ『各自が3日間しっかりと生きられる対策を立てること』との回答でした。病院の規定で非常電源設備を備えているのですが、JISの病院電気設備の非常電源の連続運転時間は10時間以上という規定。でもこれじゃ足りないということになり、そこから非常用電源の増設工事をやった病院が多かったですね」と当時を振り返る相澤先生。その後、国土交通省の規定で災害拠点病院の非常電源は72時間以上となり、東日本大震災の時には、被害が大きく作動しなかった地域もありましたが、拡大対策が各所で活かされました。

より高度な医療を担う臨床工学技士

「医療がどんどん高度化し、2年前には臨床工学法技士法が改正になりました。様々な分野で働き方改革が進められていますが、医療の現場でも医師の働き方改革の対策として、われわれ臨床工学技士がこれまで医師が行ってきた業務を受け持って、高度な医療を行わなければいけなくなりました」。
その一例として相澤先生が挙げたのは手術ロボットや内視鏡を使った手術。臨床工学技士はその補助的な仕事をできるようになり、現場にいる臨床工学技士も国から告示された研修を受けことになり、教育機関でもある東北文化大学でもカリキュラムにその内容が反映されます。
「学生にとって資格取得に必修の臨床実習では指導者育成という事で、臨床実習指導者の講習会も全国で行われ、私も1つの分野の講師を担当しています。実習を受け入れる施設が全国に1200カ所ほどあるんでが、1カ所に最低1人は臨床実習指導者がいないといけません。講習会が昨年度から始まり、やっと600人超を育成できたのですが、残り1年で同数程度の指導者を育てる必要があります」。

現場の最新ニーズを学べる強み

「年々、臨床工学技士の重要性は増していて、おかげさまで当校にもたくさんの求人をいただいています。これは卒業生のおかげでもあって、最前線の情報や現場が教育機関に求めることを教えてくれたり、指導者となって後輩の実習を受け入れて指導してくれる、本当にありがたいです」。相澤先生と大学、卒業生のつながりの強さが、臨床工学技士を目指す学生の学びをサポートする好循環が生まれています。
医師や看護師、診療放射線技師、臨床検査技師などは、一般の方が病院で会う機会も多いものの、臨床工学技士はまだまだ知られていない存在。そこで相澤先生は将来の仕事を検討しているみなさんへ「今後はAIの活用など活躍の場はさらに広がるでしょう。ぜひ多くの人に臨床工学技士の仕事を知っていただき、ぜひ挑戦してほしいですね」というメッセージを寄せてくれました。


「最新の機器だけでなく、元となる原理も学ぶことで考える力が身につきます」と話す相澤先生。