看護学・リハビリテーション学研究

看護学・リハビリテーション学研究からのアプローチ

日常の何気ない動作を 分析し、改善点を探る

太田 千尋  助教
医療福祉学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻
太田 千尋  助教


私たちは、日常生活の中で「食事をする」や「着替えをする」などの動作を何気なく行っていますが、ケガや病気によってそうした動作ができなくなることもあります。そうした方々の支援をするのが作業療法士の役割です。作業療法学専攻の太田千尋先生の研究テーマは、日常の動作を「運動学的な視点」と「動作の行いやすさ、道具の使いやすさ」など主観的な視点で分析し、改善や工夫のポイントを見つけ出していくことです

eスポーツによる脳の血流の変化を測定

「最近、学生と取り組んだテーマは、『eスポーツ』です。今、様々なプロゲーマーが注目されていますが、実は高齢者施設でも取り入れられています。高齢の方でも楽しく取り組めることはわかっているのですが、それをやると気持ちや脳の働きがどんなふうに変わるのかという研究はあまりやられていません。そこを学生と調べました」と話す太田先生。
実験に使用するのは、世界的にも人気の高いアクションレースゲーム。実験の方法としては、医療の現場でも使われている、脳表面の血流を測定できる機械を装着しながら、何もしていない時とゲームをしている時に脳の血流の変化を計測し、比較するという方法。


前頭葉の各場所の血流を測定する機械。

対象者、ゲームの種類、測定場所の違いとの比較も

「今回は学生が被験者となって、ゲームを1人でやる場合と2人の対戦型でやる場合、何もしていない場合の脳血流を比較しました。ゲーム時間は1回2〜3分。続けてやると影響が出るので、実験は数日空けて2回実施しました」と太田先生。機械で計測するのは、血液中にあるオキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、トータルヘモグロビンの3種類の変化。
「ゲームをすると酸素と結びついたオキシヘモグロビンが脳に寄ってくる。それでまたゲームをやめると、それが下がる。つまり何もしていない時に比べてゲームを始めると血流が活発になるということがわかりました。ただ、それが患者の行動や話し方などとどう関わるのかというところまでの比較はできてないので、今後、そういうところも研究していきたいと思います」。
さらに、データの収集についても、今回は学生を対象にしましたが、ゲームに慣れている人と慣れていない人を比較したり、ゲームの違いによる比較をしたり、測定する脳血流の場所を変えて比較する必要もあると言います。



「ゲームへの期待感か、コントローラーを持った時点で一気にヘモグロビンの数値が上がっています」と太田先生

実習での気づきが卒業研究につながることも

「作業療法学専攻では学生が臨床の現場へ実習に行きますが、そこで卒業研究のテーマを見つけてくる学生もいます。高齢になると座っているところから立ち上がることが難しくなります。学生が現場で担当した対象者と関わる中で座っている場所によって、難易度が変わることに疑問を感じ、この違いは何かを調べたいというリクエストでした」。そこで椅子から立ち上がる様子と、上り框のように低いところから立ち上がる様子を真横からスマートフォンで撮影し、アプリを使って立ち上がる際の足首の角度、膝の角度、股関節の角度を測って比較し違いをデータ化しました。
「こうした研究結果はすでにいくつかあるのですが、学生が臨床の現場で疑問を持って、主体的に調べてみると思うことがとても大事で、現場に出た時にもそういう視点は活かされると思います」と太田先生。


「あれ、おかしいな?」と気づくことと対象者の背景を理解することが大事。

今年度は「睡眠」をテーマにした研究も

「今年は『睡眠について調べてみたい』という学生がいます。日本の学生は全体的に睡眠時間が不足していてそれが様々なところに影響しているということで研究したいと。うちの専攻は臨床実習が10週間あるので、実習の時期と授業だけの時期の違いを調べることになっています」。卒業研究は3年生の後期に関連する論文を資料として読み込み、方向性を決め、4月にデータを取ります。ただ4年の5月〜7月に実習があるため、その合間を縫って実験データを採取する必要があります。
「国家試験対策もあり、卒業研究を行わない大学もありますが、実習で見つけた気づきや興味を広げて、自ら考える力を育てるために卒業研究の果たす役割は大きいです」。

研究のポイントは最適な情報を引き出す力

「これからのみなさんにアドバイスするとしたら、やはり疑問を持つこと、不思議だなと思うことですね。その疑問は本を見れば書いてあることかもしれません。スマホで検索すれば数秒だと思います。でも単純に人から教えられるよりも自分で気づいて調べたことは後々まで記憶に残ります」と太田先生。さらに作業療法学の分野は、比較的新しくまだまだわかっていないことも多いのだそうです。
「最近は研究分野でもデジタル化が進み、便利なアプリやソフトも数多く、計測や計算、翻訳も効率よくできるようになりました。ただ逆にいらない情報も多いので、いかに必要で正確な情報を見つけ出すか、その能力がポイントになります。卒業研究はそういう意味でも必要な経験です」。