看護学・リハビリテーション学研究

看護学・リハビリテーション学研究からのアプローチ

思考と行動から探る 優秀な視能訓練士とは?

石川 奈津美  助教
医療福祉学部 リハビリテーション学科 視覚機能学専攻
石川 奈津美  助教


人間が五感から受け取る情報の中で、8割を占めるのが視覚です。大切な眼の健康を守る上で、医師や看護師とともに重要な役割を果たしているのが国家資格の視能訓練士です。自身も視能訓練士として臨床での経験を持つ石川奈津美先生の研究テーマは「視能訓練士のコンピテンシー(行動特性)」。実際に臨床で働く視能訓練士をインタビューし、「優秀な視能訓練士はどんな行動を取っているのか?」を調査、研究しています。

現場に求められる視能訓練士とは

視能訓練士が活躍しているのは眼科などの病院です。医師の指示のもと検査や訓練を行っています。数多くの患者さんをケアしながら、様々な検査を行い、正確な結果を出すなど、いくつもの重要な役割を担う視能訓練士ですが、これまで「どのような行動が臨床の中で求められているのか」ということは明らかにされていませんでした。
「学生の育成についても私たちの経験則で指導してきましたが、果たしてそれが全ての病院で同じように求められることなのか明確にはわかっていませんでした。現場の視能訓練士の方々がどういうことを求めていて、どういう視能訓練士が優秀、有能だと判断しているのかを研究し、モデルを作成することが必要ではと思い、調査と分析を進めています」と話す石川先生。

有能な視能訓練士の行動とそう思う理由

「調査は、視能訓練士の方に1対1でインタビューします。時間は30〜50分くらい。そこで出てきた会話にどんなキーワードがあるのかを探って、これは柔軟性を求めているなど、言葉の持つ意味を分析していきます」。石川先生がこのインタビューでもっとも重要と話すのは「実際にいる人で、あなたが有能だと思う視能訓練士はどういう行動をとっている人ですか?」という質問。
「理想ではなく、実際に存在する方の行動について聞きます。同時にそう思う理由も聞きます。例えば『患者さんの問診を丁寧に聞き出す人』が有能と思うとしたら、『医師に言えないことを視能訓練士に話すと患者さんがホッとできるから』『患者さんの不安を軽減するために役立つから』などの理由を聞きます」と石川先生。ただ単にその行動を取っている人が有能なのではなく、「どういう思い」、「どういう思考」でその行動を取ったのかを聞き出すことが重要と話します。そこを明らかにすることで、研究結果を指標にした時に、真似する方もどういう場面で どういうことを求められていて その行動をとったらいいのを明確に示すことができるのです。



「オンラインよりも対面の方が、相手の方も話しやすそうな印象があります」と話す石川先生。

対象者の言葉やニュアンスから本質を読み解く

「有能な方は?と聞いてしまうと、言葉出てこない場合もあります。そういう時は反対の視点『有能じゃない行動はどんな行動ですか?なぜそう思うのですか?』と質問を変えます。そうすると『これが有能じゃないと思ったということは、その逆が有能な行動かな』と話が広がったりしますので、そのようなアプローチもします」と石川先生。さらに「あなたが働く上で大事にしていることは何ですか?」という質問も必ず聞くそうです。
「インタビューしているといろんな思いがあるなと感じます」。そうした思いをしっかりと受け止めるため、石川先生は、インタビューの音声はICレコーダーを使い録音。録音した音声は聞き返しながら、話し方や表現のニュアンスの違いも踏まえ、一言一句丁寧に文字に起こし、分析していくと言います。さらに現在もインタビューを進めており、その結果を大学での指導にもフィードバックし、学生が現場に出た時のギャップをなくすように、先生同士で教育方針を話し合っているそうです。



眼科検査の使い方を指導する石川先生

視能訓練士にとっても「改めて考える良い機会」に

石川先生の調査は、インタビューの対象となった視能訓練士にも好影響を与えていると言います。
「おそらく臨床で働いている方たちは、こういうテーマについて考えることはあまりありません。私がインタビューした方たちも『どういう思いを持って私は指導しているか』ということを意識しながら、学生や新人を指導することは、普段少ないと思います。実際、インタビューをきっかけに、『今まで認識していなかった自分の考えを改めてまとめられて、すごくいい機会でした』と話してくださった方がいて、それを聞いて調査してよかったと思いました」。学会で発表した際にも「視能訓練士を育てる養成校としても、こういう基準を目標にして学生を指導できる」「視能訓練士の組織率を高めるための検討材料としても有効」などの意見が寄せられ、石川先生は研究の果たす役割を改めて実感したと話します。



「いつでも思考と行動は変えられる、その面白さを知ってほしいですね」。

いつからでも考え方を変えれば、行動が変わる

「まだまだ視能訓練士って認知度が低く、眼科医一人に対して2〜3人は視能訓練士が望ましいと言われているのですが、地方ではまったく視能訓練士が足りない状況です。もっと私たちがその必要性ややり甲斐を多くのみなさんにアピールしていかなくてはと思っています」と石川先生。イベントなどに参加し、一般の方と交流すると眼に関する悩みや相談事を抱えている人は多く、視能訓練士を必要とする人は増していると感じたそう。
「眼球の大きさは24mmしかないですが、その中にまだ解明されていない構造や神経回路など不思議なことがたくさんあります。私たちはその眼について検査や訓練をしますが、AIはその結果を画像診断はできるけれど、患者さんにあった眼鏡やロービジョンの道具などを提供することはできません。それが出来るのは私たち視能訓練士です。また、行動特性(コンピテンシー)は、それまでの環境に関係なく、いつからでも自分の考え方次第で行動を変えられます。行動を学習し、自分の力にすることもできます。視能訓練士、医療職に興味を持った方は、オープンキャンパスで待っていますで、ぜひ遊びにきてください」。