「ケプストラム分析で音声を分析し、変換していくと、音声波形だけでなく数値としてパラメータが抽出できます。様々な音声を分析できることは、音声障害診療だけでなく、音声治療で患者様に、自分の声がどの程度改善しているのかなどを具体的に示しやすく、訓練のモチベーションにもつなげることができます」。
一方で音響分析機器自体を設置するスペースや高額であることなどの理由から、すべての病院・クリニックで使えるまでにはいたっていません。そこで阿部先生は、患者様や人の音声のサンプルを集め、日本人の声を分析し、その数値が聴覚心理的評価とどれだけ一致しているか、またその信頼性や妥当性を検討する研究にも取り組んでいます。
「買い物や食事に行った際などに、自分が思っているように声が届かないと不便を感じるかもしれませんし、それがストレスになるかもしれません。そうしたADL(日常生活動作=Activities of Daily Living)やQOLを守るのも言語聴覚士の大事な役割です。患者様の今の状態を正確に評価し、伝えることで『一生懸命頑張ったら、よくなってきた』とか『やっぱり無理をせず、マイクを使ったほうがいいのかも』など状況に合わせた判断がしやすくなります。そのために私たちは研究だけでなく、日常へ汎化させることも常に考えながら、患者様にあわせたオーダーメイドのセラピーを考えていくことも大切です」と阿部先生は話します。
「あれ、おかしいな?」と気づくことと患者様の背景を理解することが大事。