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平成31年3月14日(木) 平成30年度東北文化学園大学・大学院 学位記授与式を挙行しました

イベント
学位記授与式学位記授与式

平成30年度東北文化学園大学・東北文化学園大学大学院
学位記授与式 学長式辞

 今年は暖かい冬でした。庭の福寿草は例年通りに芽吹き、山野には、これからカタクリ、ニリンソウ、ショウジョウバカマが咲き乱れる春がやってきます。

 東日本大震災が起きてから、8年が経過いたしました。多くの皆さんは、震災の時に中学3年生でした。最も多感な8年間を経過して、皆さんの中には語り継ぐべき震災像がはっきりして来たのではないでしょうか。

震災後8度目の春が来ようとしています。皆さんは、今日晴れて学位記授与式を迎えます。今年もまた、希望に満ちた春が始まります。

 本日ここに、ご来賓ならびに東北文化学園大学関係者各位のご列席のもと、平成 30年度学位記授与式が挙行できる喜びをかみしめています。この度学位を授与された者は、3学部合わせて409名です。また、大学院にて修士の学位を授与された者は7名です。

 卒業する皆さんは、本学にとって17回目の卒業生となります。皆さんのこれまでの努力に対し心から敬意を表し、ご卒業をお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで支えてくださった保護者の方々、皆さんと辛苦を共にし、教育に勤しんでくださった教職員の方々に、心から感謝し、お喜び申し上げたいと思います。

 学位記授与式に当たって、「言葉」についてお話しします。昨年6月27日の毎日新聞で、水曜日の論説を担当する中村秀明さんは、「誰かのスピーチに聴き入ったのは久しぶりだった。」と書き出しました。「誰かのスピーチ」とは、6月23日、沖縄慰霊の日に、中学校3年生の相良倫子さんが書き、朗読した「平和の詩」を指しています。冒頭の部分を紹介させていただきます。


「私は生きている。

マントルの熱を伝える大地を踏みしめ、

心地よい湿気を孕んだ風を全身に受け、

草の匂いを鼻孔に感じ、

遠くから聞こえてくる潮騒に耳を傾けて、

私は今、生きている」


以下は略しますが、冒頭生きることの賛歌から始まり、一転して73年前の死の島と化したあの戦争の日々を振り返り、そして高らかに平和を謳い、誓う大変美しく、格調の高い詩でした。生き生きとした言葉には、素直に心に響いてくる力強さがありました。相良さんの心の中にある平和を願う強い気持ちがそのまま言葉になっているからです。

 中村さんは、「立ち止まらせる言葉」というタイトルの論説も書いています。この論説は、「テレビやラジオはしゃべりすぎていないだろうか」、歩みを止めて引き込まれるような言葉に出会いたいという趣旨のものです。実は「立ち止まらせる言葉」というのは、哲学者の池田晶子さんの言葉に由来します。池田晶子さんは、46歳で腎臓がんのために亡くなった哲学者です。中学校3年生の国語に、池田さんの「言葉の力」という大変美しく力強い詩が取り上げられていますので、冒頭の部分を紹介させていただきます。


「人間は言葉を話す。

話すだけではなくて、読んだり書いたりもする。このことは、よく考えると、本当に不思議なことだ。

これは、本当に不思議なことだ。多くの人は、

これをあたりまえのことと思って、

それについて考えるということを殆どしていないけれども、

あたりまえのことより不思議なことは、この世の中には存在しない。

あたりまえの不思議に気がついて、それを考えながら生きる人生と、

あたりまえと思って、それを考えることをせずに生きる人生とでは、

人の人生は、全く違ったものになる。

言葉の不思議というのは、そういうあたりまえの不思議のうちでも、最も不思議なものなのだ。」


この詩の中で池田さんは、言葉は魔法の杖で、私たちはその魔法の杖を使って、どのような人生も創ることができると書いています。「私たちが存在することは、奇跡だ」と池田さんはいいます。確かに私たちの体そのものが生物学的な奇跡です。それだけではありません。私たちにはいのちがあります。いのちがあると考える精神があります。精神があるから考え、考えるには、言葉を使います。相良さんや池田さんの詩のように言葉にいのちを吹き込むのは精神の仕業です。

論説委員の中村さんは、「立ち止まらせる言葉」の論説の最後に、「この短い問いかけに出会い、ずっと考え込み、本当の言葉を探している」と書いています。そういう中村さんだからこそ、きっと相良倫子さんのスピーチに足をとめ、池田晶子さんの「言葉の詩」に巡り合うことができたのだと思います。本日晴れて卒業する皆さんも、是非本当の言葉を探す人生の中で、真実の友を見出し、「立ち止まらせる言葉」に出会うことを祈っています。

 それでは、今日この良き日を心から祝福するとともに、皆さん一人一人の人生が幸多いものとならんことを祈りつつ、式辞とさせていただきます。
 本日は、誠におめでとうございます。


平成31年3月14日
東北文化学園大学
学長  土屋  滋