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2019年4月3日(水) 2019年度東北文化学園大学・大学院 入学式を挙行しました

イベント
2019年度東北文化学園大学・東北文化学園大学大学院
入学式 訓辞




 仙台の桜の開花は4月2日、入学式を挟んで来週九日頃が満開との予想です。鶯も里に下りて来て鳴き始めました。暖かかった冬のお蔭で、春の花が一斉に咲き出しそうです。希望に満ちた今日この良き日に、みなさんを国見のキャンパスにお迎え出来ることを、教職員一同、心から嬉しく思っております。

 ただ今、3学部七学科、計544名、3年次編入学5名及び大学院博士課程前期20名、博士課程後期2名、総数571名の新入生に入学許可宣言をいたしました。本日晴れて入学を認められた新入生の皆さん、御入学誠にお目出とうございます。この日を待ちわびておられた保護者の皆さまのお喜びはひとしおのことと存じ上げ、心からお祝いを申し上げます。本学は平成11年に開学して以来、本年3月までに17期にわたる卒業生を送り出し、本日は21期にあたるあなた方を迎えることになります。

私たちの大学は、全学共通教育の一環として、TBGUプロジェクトを用意しています。その一つ「輝ける者」プロジェクトは、仙台フィルハーモニー管弦楽団と第一線で活躍する若手指揮者の指揮のもとに、ベートーヴェンの第九交響曲「合唱付」を歌います。昨年で8回目を迎え、指揮は、カナダ在住のケン・シェ氏にお願いしました。学生たちは、4月から12月の演奏会までべートーヴェンやシラーの詩に関する様々なことを学びながら、専門の合唱指導陣から合唱の指導を受けます。最後までやり遂げた学生諸君から伝わってくる高揚感・達成感には、いつも強く心を打たれます。教育支援センターにもグロバールエジュケ―ションプロジェクトがあり、海外研修を企画しています。今年はオーストラリア、韓国、中国研修がありましたが、海外での体験を契機とした学生の成長振りには目を見張るものがあります。このほかにも学友会活動を含めて様々な学生・教員との交流が用意されています。どうぞ一人でも多くの学生諸君が、いろいろなプログラムに積極的に参加し、自分の殻を破り、新しい自分を発見し、心を許せる友と師を見つけていただきたいと思います。

 話は変わります。皆さんは、「この無限の空間の永遠の沈黙が、私を恐れさせる。」と言う言葉を聞いたことがあると思います。パスカルのパンセにある有名な一節です。今日は入学式に当たって宇宙に思いを巡らせてみたいと思います。火星には火星探査車「オポチュニティー」が2004年、また「キュリオシティ―」が2012年に送り込まれ、定期的に火星の風景写真や、砂嵐の写真を送ってきています。「オポチュニティー」は15年にわたる活動を終え、昨年連絡が途絶えました。「キュリオシティ―」の方は現在も正常に機能し、火星の情報を送り続けています。これらの探査車は、火星の光景は砂漠に似ていること、砂嵐が存在すること、最も簡単な有機物であるメタンが今も大気中に存在すること、極冠の下に幅20kmにわたる液体の湖が存在することなどを明らかにして来ました。地球以外にも生命体が生存する可能性を考える上で、有機物や水の存在は極めて重要です。

 ところで皆さんは、地球上の海の水はどこからやって来たのか考えてみたことがありますか?あるいは地球上の生命が発生する最初の材料はどこからやって来たのか考えてみたことがありますか?宇宙物理学を専門にしている研究者たちは、水も生命の基になる複雑な有機物も、小惑星が地球に衝突した際、地球上に運ばれてきた可能性を真剣に考えています。小惑星には水や有機物が存在することを証明するために、小惑星探査機を小惑星にタッチダウンさせ、サンプルを収集し、地球に帰還させるプロジェクトがあります。それが「はやぶさ」プロジェクトです。「はやぶさ2」が多くの想定外の事件を乗り越えて、無事小惑星リュウグウにタッチダウンし、サンプルの収集にも成功したというニュースが今年の2月にあったことを皆さんも覚えていると思います。リュウグウは、黒い色をした小惑星で、単純な石だらけの小惑星よりも、複雑な有機物が見つかる可能性が高い小惑星だそうです。また、「はやぶさ2」からの観測データで、リュウグウには含水鉱物が存在することがすでに確認されています。含水鉱物とはOHを含む鉱物のことです。「はやぶさ2」が来年地球に持ち帰る収集サンプルは、海の起源、生命の起源、さらには宇宙の起源に関する重要な情報を提供してくれることが期待されています。

 しかし、もっと壮大な話を宇宙物理学者は考えています。今年の2月に宇宙物理学者の村山斉先生の「最後の講義」をテレビで見ました。村山先生は、リニアコライダープロジェクトを積極的に推進している研究者です。その村山先生の問いはもっと根源的なものです。つまり自分の体を作っている原子はどこから来たのかという問いです。宇宙は今から138億年前にビッグバンによってでき、現在もものすごい速度で膨張しています。ビッグバンにより宇宙が始まった時に原子も誕生しました。でも驚くべきことに、宇宙の中は、原子等の通常の物質が4.9%しかなく、暗黒物質と呼ばれるダークマターが26.8%、ダークエネルギーが68.3%と算定されています。ダークマターの正体は全く不明ですが、ここから新しい惑星は生まれてくるのだそうです。それでは、そもそも宇宙が誕生する前には何があったのでしょう。リニアコライダープロジェクトが実現すると、そこでビッグバンを再現し、宇宙の始まりに何が起きたかを知ることができるそうです。

 宇宙に関するなぞ問答を続けてきました。皆さんに理解していただきたいことは、宇宙が誕生する前にはなにがあったのだろうという純粋に宇宙物理学的な問いは、突き詰めていくと原子の起源、そして私が生まれる前の私はどこにいたのだろうという問いにも関係して来るということです。この根源的な問いは、結局ポール・ゴーギャンの晩年の絵のタイトル、「われわれはどこから来たのか」「われわれは何者なのか」「われわれはどこへ行くのか」という哲学的・宗教的な問いに収束していくように思われます。

 私たちの大学は、「輝ける者を育む」を建学の精神を表す言葉としています。

「輝ける者」とは、未経験の問題に挑戦し、その答えを求めていく人のことです。大学は考えることを学ぶところです。折に触れてそのことを思い出し、友人や教員と宇宙の起源、人の起源について思いを巡らすのもまた、楽しい大学生活ではないでしょうか。


2019年4月3日
東北文化学園大学
学長 土屋  滋