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平成28年度東北文化学園大学・東北文化学園大学大学院 入学式訓辞

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平成28年度東北文化学園大学・東北文化学園大学大学院

入学式 訓辞


 蔵王の山々は、まだ雪の中です。今年の桜前線は、ほぼ例年並みの北上ですので、ここ国見の丘では、入学式の開花にはまだ早いかもしれません。希望に満ちた今日この良き日に、みなさんを国見のキャンパスにお迎え出来ることを、教職員一同、心から嬉しく思っております。

  ただ今、3学部7学科、計500名、3年次編入学12名及び大学院博士課程前期8名、総数520名の新入生に入学許可宣言をいたしました。

 本日晴れて入学を認められた新入生の皆さん、御入学誠におめでとうございます。この日を待ちわびておられた保護者の皆さまのお喜びはひとしおのことと存じ上げ、心からお祝いを申し上げます。

 本学は、平成11年に開学して以来、本年3月までに14期にわたる卒業生を送り出し、本日は18期にあたるあなた方をお迎えすることになりました。今年度は、医療福祉系の大学としての完成度を高めるために、科学技術学部に臨床工学科を新たに設置し、本日晴れて新入生を迎えております。

 さて、大学生活を始めるにあたって、是非学長の私から皆さんに、入学後、半年間の大学生活の重要性について注意を喚起したいと思います。この期間を休まず講義やガイダンスに出席し、教職員と話し合い、友人と語り合う喜びを見つけ、学修習慣を確立し、キャンパスライフに馴染んでいただきたいと思います。アルバイトの時間やスマートフォンと向き合う時間を、しっかり自分でコントロールしてください。保護者の方も、この時期、子供さんと大学生活、将来の夢について話し合う機会をできるだけ多く持っていただき、学修に対する意識や将来に対する目標を語り合っていただけませんでしょうか。卒業に至るには、自分で考え、繰り返し学ぶ習慣を身につけることが欠かせない条件です。このことを肝に銘じてこれからの大学生活を過ごしてください。

私達は、皆さんの学習を支援するために、昨年の3月に1号館地下1階に、教育支援センター、略してEサポを移転させました。このEサポには同時にラーニングコモンズの機能を持たせています。また、サポートスタッフによる学習支援などの体制も整えており、今は、学生たちに人気の学修空間となっています。先月にはLL教室のコンピューターを総入れ替えし、新CALL機能を備えたマルチパソコンルームが2部屋完成し、皆さんの利用をお待ちしています。

次に、私たちの大学で毎年行われる、一般市民を対象とした二つの大きなプロジェクトを紹介します。一つが昨年で13回目を迎えた医療福祉フォーラムで、5月に開催されました。「あなたの終の棲家はどこですか?」というテーマで、特別講演として、元NHKエグゼクティブアナウンサーで、現在は千葉県の熊野神社宮司の宮田修氏をお呼びしました。700名程の聴衆は、宮田氏の軽妙な語り口に魅了されていました。

二つ目は、TBGUプロジェクトI「輝ける者」です。このプロジェクトは、仙台フィルハーモニー管弦楽団と第一線の指揮者の指揮のもとに、ベートーベンの第九交響曲合唱を歌います。昨年5回目を迎え、指揮者は、ウィーン在住の寺岡清高氏にお願いしました。学生たちは、4月から12月の演奏会までべートーベンやシラーの詩に関する様々なことを学びながら、第一級の合唱指導陣から、合唱の指導を受けます。最後までやり遂げた学生諸君の充実感・達成感には素晴らしいものがあります。Eサポは、第九交響曲合唱のほかにも、いろいろなプログラムを用意しています。どうぞ1人でも多くの学生諸君がEサポに足を運び、いろいろなプログラムに積極的に参加し、新しい発見をし、そして新しい友人を見つけてください。

 さて、入学式の恒例のプレゼントとして、皆さんに児童文学の範疇に入る一冊の本を紹介させていただきます。まず、主人公の外見について少し引用してみます。「見かけはたしかにいささか異様で、清潔と身だしなみを重んずる人なら、まゆをひそめかねませんでした。彼女は背がひくく、かなりやせっぽちで、まだ八つぐらいなのか、それとももう十二ぐらいになるのか、けんとうもつきません。生まれてこのかた一度もくしをとおしたことも、はさみを入れたこともなさそうな、くしゃくしゃにもつれたまっ黒な巻き毛をしています。目は大きくて、すばらしくうつくしく、やはりまっ黒です。」でも、この女の子は、それこそ他には例のない素晴らしい才能、つまり相手の話を聞くことが出来るという不思議な力を持っているのです。ここまで紹介すれば、この女の子の名前はもうお分かりですね。「モモ」です。作者は、ミヒャエル・エンデというドイツの作家です。

「モモ」に付けられた副題は、「時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子の不思議な物語」です。この物語のテーマを、端的に言い表しています。重要な登場人物は二人です。「モモ」と、「あらゆる人間の時間の統括者」である「マイスター・ホラ」です。重要な会話は、殆どこの二人の間で行われています。そして二人の世界の間をつなぐ仲介者がカメの「カシオペイア」です。まず、ミヒャエル・エンデの時間の考え方を理解してみましょう。「時間」とは、「未来、現在、過去を一つにした世界」のことですが、「誰でも知っているとおり、その時間にどんなことがあったかによって、わずか一時間でも永遠の長さに感じられることもあれば、逆にほんの一瞬と思えることもある」ものです。ですから、メトロノームで規則的に打つ時間とは異なる概念の時間があるということです。しかも、「人間には、その時間を感じるために心がある」というのです。そして「人間というものは、ひとりひとりがそれぞれ自分の時間を持っている。そしてこの時間は、本当に自分のものであるあいだだけ、生きた時間でいられるのだよ。」こんなことを「モモ」に聞かせているのが、マイスター・ホラです。副題にある「時間どろぼう」とは、「心のどろぼう」に読み替えてもよいと思います。「モモ」は、敢然と時間どろぼうに戦いを挑み、人間のために人間の時間を取り戻してくれたのです。

 「モモ」は、「カシオペイア」に導かれ、「マイスター・ホラ」に出会いますが、そこから時間のみなもとに連れて行かれます。それは、生まれる前の世界、あるいは、心の原世界でもあります。そこでは時間の振り子の一振れ一振れに花が咲き、しぼみ、また咲き、そしてこの素晴らしい色彩豊かな花は、音楽となり響き合っています。「そのときとつぜんモモはさとりました。これらのことばはすべて、彼女に語りかけられたものなのです!全世界が、はるかかなたの星々に至るまで、たったひとつの巨大な顔となって彼女の方をむき、じっとみつめてはなしかけているのです!おそろしさよりももっとおおきななにかが、彼女を圧倒しました。」圧巻のファンタジーがここにはあると思います。大学入学、そして新学期の始まりにあたり、皆さんも、もう一度皆さんの時間の質について考えてみてください。「人間が時間を節約すればするほど、生活はやせ細って、なくなってしまうのです。そして、人間の生きる生活は、心の中にあるのです。」「時間どろぼう」は、いつも巧妙に皆さんに忍び寄っています。

読むたびに理解が深まり、新たな発見がある。それが読書だと思いますが、「モモ」は、まさにそのような本の一冊だと思います。人として生涯を生きて行くうえで、書物程得るものが多い師はいないと思います。皆さんにとって、今日を大学における読書の第一日目にしていただけたら、これほどうれしいことはありません。

最後に、学園歌のタイトルにある「輝ける者」について、触れておきたいと思います。「輝ける者」は、私達の大学の求める理想的な人間像を、一言で言い表した言葉です。皆さんが「輝ける者」として力強く社会に羽ばたいて行く日まで、教職員一同、皆さんに寄り添いながら支えて行くことをお約束し、訓辞を終えたいと思います。

平成28年4月5日
東北文化学園大学
学長 土屋 滋
(「モモ」の引用は、大島かおり訳、岩波書店によります。)