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総合政策学部 総合政策学科

回り道も、良し

総合政策学部准教授 増井 三千代

今月初め、イギリス人講師と寝食を共にしながら、英語漬けの時間を過ごす「English Boot Camp」を実施した。これは、海外や留学に興味はあるが、なかなか一歩が踏み出せない学生に、擬似海外生活を体験してもらうプログラムである。野外炊飯をしたり、夜遅くまで互いの国や文化について語りあったり、翌日には色鮮やかな紅葉を眺めながらの足湯も体験した。参加した学生たちは、終始積極的に交流を図り、修了式では一人一人がイギリス人講師に向けて心からの感謝を英語で述べた。

海外に対して、学生たちの関心が目に見えて高まった要因は、学生と年齢の近いイギリス人講師2名の活躍に依るところが大きい。彼らは1967年に設立されたイギリスの国際ボランティア機関「Project Trust」から東京の私立中・高等学校に1年間派遣されているボランティアである。この「Project Trust」は、イギリス国内の17~19才の中等教育修了者を対象に厳しい選考、研修を行い、毎年300人ほどの教育活動支援を行うボランティアを世界各地に派遣している。中でも、日本は渡航先として大変人気があるため、厳選された優秀なボランティアが派遣される。

実は、彼らの多くは大学入学許可を有している。高校卒業から大学進学までに1年間の猶予(=gap )を与える「ギャップ・イヤー」制度を利用して海外で見聞を広め、帰国後大学に進学する。ギャップ・イヤーを経験した学生は、非経験者の学生と比べて、就学後の学習意欲や成績が高いと言われている。イギリス発祥のこの制度は、近年、世界中で広く認知され、2015年、日本でもついに文科省が補助金交付を行い、対象となった12の大学で、ギャップ・イヤー制度を導入する試みが始まった。

個人的にはこの制度が日本でも慣習化されることを大いに期待している。なぜなら、私のゼミ生A君が身をもってその効果を証明してくれたからだ。A君は4年に進級する直前の3月に、私の研究室に突然現れ、「海外に行きたいので1年間休学したい」と申し出た。他のゼミ生が必死に就活に取り組んでいたこともあり、「現実逃避では?」という複雑な思いを抱えながら、休学を受け入れた。それから、A君はアルバイトをして渡航費を稼ぎ、数か月間語学留学をした。4月に復学したA君は、1年後輩のゼミ生たちと共に就活を始めた。留学経験を活かし、国際色豊かな職を選択するものだとばかり思っていた私の期待は、またもや裏切られた。突然、「地元で公務員になりたい」との連絡があった。

English Boot Campの前日、A君にとって最後の機会となる公務員試験の面接練習に付き合った。数日後、A君から合格を知らせるメールが届いた。そこには、「今回の試験に限らず、毎度、自信を持って就活に取り組むことができたのは、先生のおかげです」との言葉が添えてあった。

あぁ、私も留学という回り道をした学生だったのに、いつの間にか近道が正解だと思っていたなんて……。A君、あなたがギャップ・イヤーを選択したことに、改めて心からの敬意を表したい。