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総合政策学部 総合政策学科

あなたにとって働くとは?

2018.10.2
総合政策学部准教授 増井三千代

 就職委員2年目を迎えた私は、3年生向けキャリア形成科目の「キャリア戦略Ⅱ」に毎週出席している。
就職情報会社から派遣された講師による解説は、実に明快で説得力がある。
そのため、差し迫る「就活」いう現実を突きつけられた学生たちは、毎回、食い入るように講義を聴いている。

 ある日、講師が

「もし宝くじで3億円が当たったら、皆さんは働きますか?」

と学生に問いかけた。

一般的に、大卒で正社員として定年(60才)まで働いて稼げる平均生涯年収は、2億円と言われている。
このことを踏まえると、働かない派が圧倒的多数を占めると思われたが、予想に反し、ほとんどの学生が働くことを選択した。
その理由は、生活費を稼ぐこと以外に、「自分の将来の夢を実現するため」「社会貢献のため」「働かないと世間体が悪いため」など、多岐に渡った。

 働く理由を問われたら、これは働く人の数だけ答えがあり、そこに唯一の正しい答えは存在しない。
しかし、就職したら一日の大半を仕事に費やし、人生の半分は働く時間となる。
学生たちには働く意味を曖昧にせず、真摯に就活に取り組んで欲しい。

 就活はその時の社会情勢や景気に大きく影響される。就職難の時代には、優秀でありながら内定を獲得できず涙した学生を何人も見てきた。
一方、ここ数年は売り手市場になったこともあり、内定率は高い水準で推移している。

ところが、就職先を選ぶ基準が以前とは異なり、仕事内容よりも福利厚生が充実していることや休日・休暇が多いこと、さらには、地元志向が強く、県外に出ることを極端に嫌がる学生が増えている。就活を取り巻く環境が変化することで学生に不利益が生じることはあってはならないが、働くことに対する自分なりの価値観は、各学生が答えを見出すしかない。

 講義を真剣に聞いている学生たちの横顔を遠目に見ながら、彼らの就活に思いを巡らせていたとき、講師がある言葉を紹介した。
知的障がい者を積極的に雇用している日本理化学工業株式会社の大山泰弘会長が、ある禅僧から聞いたという「人間の究極の4つの幸せ」である。

「人間の幸せは、ものやお金ではありません。人間の究極の幸せは次の四つです。

人に愛されること
人に褒められること
人の役に立つこと
そして、人から必要とされることです。

このうち愛されること以外は、働くことによって得られます。」

 『利他のすすめ~チョーク工場で学んだ幸せに生きる18の知恵』(WAVE出版、2011年)

 社会人になる日は必ず訪れる。
この先、思い悩み、立ち止まることがあったら、就活前に授業で聞いたこの言葉をぜひ思い出して欲しい。