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総合政策学部 総合政策学科

今どきのコミュニケーション

総合政策学部教授 志賀野 桂一


授業での一こまである。
受講生にアンケートをしてみた。男女のつきあい、結婚観を問う質問を投げかけてみた。

まず男女のつきあいについて「①興味がある、②どちらともいえない、③興味ない」の3択で聞いたところ、驚いたことに「①興味がある」と答えたのは、わずか6%で、「③興味ないと」答えた学生は16%、「②どちらともいえない」は45%、33%は「不明」という結果であった。授業中にいきなり聞かれて答えにくい質問であることを割り引いても、今どきの学生は、男女づきあいに消極的な姿がうかがえる。

結婚観について聞いていくと、将来「①結婚したい、②しなくともよい、③したくない」の3択では、「①結婚したい」が8%、「②しなくともよい」が28%、「③したくない」が34%、30%が「不明」であった。数少ない女子3名は①結婚したいと答えていた。

さらに②③と答えた人の理由を「①面倒くさい、②自分の時間が奪われる、③どうした良いかわからない」3択で聞いてみると「①面倒くさい」が13%、「②自分の時間が奪われる」が35%、「③どうした良いかわからない」が6%、「不明」が39%であった。男子学生の多くが結婚にも消極的であり半数が、結婚は自分にとってネガティブな選択のひとつと捉えていることが判明した。

筆者をはじめとする旧世代の「結婚・子ども・養育」を親(大人)として自明の価値とする立場からすると、学生たちのアンケートの答えに一瞬戸惑うのである。

しかし、こうした結果は予想もできていて、遠因はコミュニケーションの変化にあると考えている。ネット社会がこれほどまでに急速に広がったのは90年代からといってよい。彼らはその申し子なのである。

今や誰でもが持っている携帯電話は普及率100%を超えている。1985年にショルダーフォンとして売り出されたころは、重さ3㎏価格が28万円もした。

そして、メディアコミュニケーションが主流となり、隣の同僚や友人同士が、直接話すのではなく、ネットで会話を交わしている。ネット・コミュニティの招来である。ネット時代に生を受けた子供たちにとって、血の通った生命体としての生身の人間は、少し怖い存在と感じているのではあるまいかと思う時がある。新世代の若者は、相手の喜怒哀楽の読み取りも含めて苦手であり、対人コミュニケーションは、したがって、エネルギーのいる作業で、億劫なことになってしまう。

また少子化で長男長女社会ともいわれるように兄弟同士で、食べ物を奪い合うなどという情景もみられなくなった。口げんかなど同世代同士での体験が少ない。

コミュニケーション論では、できるだけ、伝言ゲームやグループに分けた企画会議の練習など参加型の授業方法取り入れているが、こうしたささやかなアクティブ・ラーニングであっても、知らない[話したことのない]同窓生と話ができたことを「新鮮な体験でした!」などと授業感想に書いてあるのをみると、いかに現在の学生が、孤独なコミュニケーション環境に身を置いているのがわかる。

今どきの学生にあって、男女のつきあいや結婚観に少なくもこうした、新しいコミュニケーション環境が影響しているとすれば、政府の少子化対策も若者の対人コミュニケーションの強化から始めなければならないなどとも考えてしまった授業の一コマであった。