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総合政策学部 総合政策学科

パリの蚤の市

総合政策学部准教授 大野 朝子

 

今から10年ほど前、観光でパリを訪れた際、思い切って、前から気になっていたヴァンヴの蚤の市に一人で行ってみることにした。まだ人影もまばらな週末の早朝、緊張感でコチコチになりながら、地下鉄で移動し、最寄り駅から少し歩くと、市場はすぐに見つかった。

いろいろな蚤の市がある中、ヴァンヴは「露店」のみで、青空の下、さまざまな商品がずらりと並んでいる光景は、迫力たっぷりであった。たくさんの人が集まる中、日本人観光客もチラホラ見かけたが、一番多かったのは、地元の年配の男性たちである。みな一様に空っぽの大きなビニールの買い物袋を下げて、左右の露店を交互に眺めながら、嬉しそうに広場をぶらついている。私自身も、遅れを取るまいと、彼らの後ろに続いたのだが、そのうち、私の目の前を歩いていた男性が、馴染みと思われる骨董商に大きな声で挨拶をし始めた。二人は久々の再会がよほど嬉しかったのか、両腕を大きく広げて、「おお〜」と抱き合い、なぜかやたらと盛り上がっている。映画のなかのワンシーンのようだ。

周りを見渡してみると、「年配の男性軍団」はすでにあちらこちらに散らばり、店主とやり取りを始めていた。みんなテンションが高い。「骨董市って、こんなに活気があったのか!?」と驚いた。

なにもかもが初めてで、雰囲気に圧倒されつつ歩いていくと、日本人女性が営む店もあった。すぐに自宅で使えそうなカフェオレボウルなどの食器が並び、とてもかわいらしい。その先を歩くと、フランス人が、なんと根付の店を出していた。根付は元来日本独自のもので、和装のときに帯に挟むマスコット、というイメージしかなかったので、蚤の市の小さなガラスケースのなかに、時代を経て渋い色になった根付がいくつも鎮座していたのには驚いた。店の周りには地元の客が集まっていたので、案外人気があるのかもしれない。

仙台市内の骨董市にもたまに覗きに行くのだが、自分の買い物よりも、なぜか毎回、周りの見知らぬ人の買い物が気になってしまう。骨董市に集まる人々は毎回だいたい決まっていて、みんなそれぞれのお気に入りを見つけるのに忙しそうだ。そして、なんとなくウキウキと楽しそうなので、近くにいると幸せのおこぼれがもらえるような気がしてくる。

ちなみに、パリの骨董市で私を魅了したのは、古い絵ハガキ専門店だった。まるでヴィンテージワインでも扱うかのように、一枚ずつ丁寧に仕分けされ、保管されているハガキの数々。裏側には、遠い昔、どこかの誰かが書いた上品で美しい筆記体の文字が並んでいる。自分の周りだけ一瞬時が止まったような気がして、独特の雰囲気に酔いしれてしまった。