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総合政策学部 総合政策学科

災害救助犬との出会い

総合政策学部教授 岡 惠介

 

以前、黒いラブラドール・レトリバーを飼っていた。ペットショップで買った、名前をチャコという明るい茶色の瞳の牝だった。仙台に転居する際も、苦労して大型犬可のアパートを見つけ、彼女と移り住んだ。

彼女は癲(てん)癇(かん)もちで、薬を飲んでも月に幾度か発作に見舞われた。発作は重く、涎を流しながら痙攣が続いた。誤って私の手を噛んだこともあった。我に返った彼女は私の手の傷を見て、すまなそうな顔をするのだった。あちこちの動物病院で診てもらい、いろいろな薬を試したが、なかなか発作は抑えられなかった。

とある動物病院に、珍しいポスターが貼ってあった。「あなたの犬も災害救助犬の練習をしてみませんか?」ラブラドールは、災害救助犬に向いた犬種だとも書いてあった。獣医は、「チャコちゃんも病気じゃなかったらね~」と残念そうに言った。健康ならば、そんな世界もあるのだな、その時はそう思っただけだった。

数年後チャコは、若くして亡くなった。犬のいない暮らしは物足りず、今度はイエローのラブラドールを飼いはじめた。イエローにしたのは、次にチャコに逢う時に虹の橋を駆けてくる彼女をすぐに見分けられるように、だった。

今度は健康な犬が飼いたいと、息子と那須のブリーダーまで幾度か通い、生まれたばかり子犬の中から、末っ子の小柄な牝を選んだ。息子が好きなアニメから、ルカと名付けた。

ルカが二才になる年の三月、あの震災がやってきた。早朝、小雪降る中をガソリンスタンドの列に並んだりしながら、悶々とした日々を過ごした。私は山村をフィールドとしてきたので、沿岸に知り合いは多くなかった。しかし、経世済民の学である民俗学者でありながら、何も役に立たない自分がもどかしかった。

そんな時期、犬は大切な癒しだった。ドッグランに連れて行ったルカが、ほかの犬たちとじゃれあって遊ぶ姿は「遊びをせんとや生まれけむ」という歌そのままで、気持ちが安らいだ。

そんなある日ドッグランで、ヒメという六才の牝のイエロー・ラブに出会った。飼い主さんから、彼女は災害救助犬で、被災地の捜索に行ってきたことを聞いた。

それまですっかり忘れていた、チャコと見たあのポスターを思い出した。飼い主さんからも「ルカちゃんもどう?」と勧められ、災害救助犬の訓練士を紹介してもらい電話をかけた。

この時から、ルカの災害救助犬修業がはじまったのだった。