文字サイズ
総合政策学部 総合政策学科

話題のアニメ映画

総合政策学部准教授 大野朝子

 

2016年のキネマ旬報で日本映画ベストテンの第一位に選ばれた、『この世界の片隅に』を鑑賞する機会があった。アニメ映画が受賞するのは、『となりのトトロ』以来、28年ぶりだそうだ。

テレビで紹介されていて、偶然知ったのだが、一目見て、その色使いの柔らかさと、主人公の可愛らしい姿に心を奪われてしまった。戦前のごく普通の日本人の生活が細かく描写されている、というところも興味深い。さらに、主人公の声は、大好きだった朝ドラ、『あまちゃん』の女優が演じているという。

ドキドキしながら映画館の座席に着く・・・コトリンゴの音楽と、アニメの映像がぴったり合っていて、なんともいえない、ふんわりとした雰囲気で映画は始まった。主人公のすずは絵を描くのが大好きな少女。冒頭のシーンは、どこまでが現実で、どこまでがすずの想像なのかわからない。なにせ、すずは、いつも心ここにあらず、という感じの、ひたすらぼーっとした、空想が大好きな女の子なのだ。戦争の傷跡をまだ受けていない、無垢な広島の街の風景が広がる。

しかし、すずの子供時代の描写はすぐに終わってしまう。物語は主に彼女が18歳でお嫁に行ってからの数年間を中心に展開する。平凡な海辺の町が、いつのまにか戦争に巻き込まれ、すずも、すずの家族も、とにかく生活を守り、身の安全を確保するのに精一杯だ・・・。やがて、悲劇が次々に襲って来て、すずも、無邪気な少女のままではいられなくなる。

戦争を描いた映画はいくつもあるが、このような形で普通の人々の、普通の生活を丁寧に描いた作品は珍しいように思う。「当たり前」に思えていたことが、ある日突然、当たり前でなくなることの恐ろしさを痛感した。

すずの家族は、最後に終戦を迎える。家族で支え合って、何もないところから再出発しようとする、彼らの凜とした姿がとても美しかった。深い傷を負った者同士であるからこそ、嘘偽りのない、本当の気持ちで寄り添うことができるのだろう。

直感的に「なんとなく面白そう」と思い、一人、映画館に足を運んだのだが、今年一番の収穫だったかもしれない。