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総合政策学部 総合政策学科

「私の故郷泰安の磨崖三尊仏」

総合政策学部教授 文 慶喆

「泰安」は私が生まれた故郷の名前である。韓国中部の西に位置し、三面を海に囲まれた小さな半島である。その海は朝鮮半島と中国の間にある「黄海」である。名前の由来は中国の黄河から運ばれる黄色く濁った水からだという説がある。私の故郷「泰安」は泰安半島の西の中心にある。この泰安半島と向かい合っている中国の山東半島にも泰安という地名がある。

泰安半島の長さは130km程だが、海岸の総延長は817kmに及んで、湾と岬が入り組んだとても複雑な形状の典型的なリアス式海岸をなしている。風光明媚な自然環境に恵まれた泰安半島は1978年韓国唯一の「海岸国立公園」に指定されている。また、地形的な特徴から天然の海水浴場は50以上を数え、韓国では海水浴場の一番多い町で、バカンスのシーズンになると大勢の避暑客が訪ねている。海水浴場の砂浜は真っ白で、殆どが貝殻からなっている。

海岸には韓国最大の砂丘があり、今は生態系保存地区として大事に保護されている。鳥取砂丘よりは規模は小さいものの、砂丘の長さは3.4km、幅は200mから1.3kmまでで広大に広がっている。

この半島の海は干満の差が激しいことでも有名である。これを利用して韓国最大の天日製塩場がある。製塩場の周りには松の木に覆われて、最近は特化した「松花塩」が作られている。

このように自然豊かな泰安半島であるが、歴史的には日本と韓国、中国との交流の実態が見られる面白い所でもある。泰安の中央には海抜284mの「白華山」が聳えている。花崗岩の山で、遠景からは山全体がまるで一枚岩のように見える。この山の頂上付近の大きな岩に「泰安磨崖三尊仏」彫られている。この磨崖仏の特徴は、真ん中の観音菩薩像が低く、両側の薬師如来像が高いという面白いところにある。中央の観音菩薩の高さは1.2m、両脇の薬師如来像は2mで、山自体は南向きだが三尊仏は東に向いている。このようなアンバランスの磨崖仏は中国や日本には例がなく、韓国にもここ以外にはないらしい。発見された時には半分以上が土に埋もれて、西から吹いてくる強い風により摩耗が激しくその真価が分からなかったようである。しかし、その後の研究の結果によりこの三尊仏は百済時代6世紀中頃造られ、韓国磨崖仏の元祖であることが分かった。ここから始まった磨崖仏は造形が進歩しながら韓国全土に広がり、また日本にも伝わったと考えられる。その後、このような価値が認められ韓国国宝307号に指定されている。この磨崖仏が造られた6世紀中頃は百済仏教の全盛期であり、日本との交流も盛んだった時期でもある。この磨崖仏を通じて古代における日本と韓国の交流の姿を辿ってみるのも楽しみではないだろうか。