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総合政策学部 総合政策学科

北朝鮮ミサイル開発をめぐる報道

総合政策学部教授 永澤雄治


北朝鮮の核・ミサイル開発に対し国際社会が有効な解決策を打てないまま年が明けたが、このミサイル実験をめぐる一連の報道の中で唐突な印象を受けたことがあった。

北朝鮮が昨年の11月29日未明に行ったミサイル実験に関して、高度は約4500km、通常角度での推計飛距離は1万3千km以上とされ、米国全土が射程に収まるという報道がなされた。つまりアメリカの東海岸に到達すると推計されるミサイル実験が行われたというのである。

この4か月前、昨年の7月28日に高度約3700kmに達したとみられる実験の際は、通常軌道による推計飛距離はあまり注目されなかったという印象を筆者は持っていた。報道の中には、7月末のミサイル実験の推計飛距離が約1万kmであったこと、つまり西海岸まで到達可能であったと指摘する専門家の意見を紹介する記事もあったが(“North Korea Tests a Ballistic Missile That Experts Say Could Hit California” ASIA PACIFIC, July 28, 2017)、11月末の実験と比べて注目度は格段に低かったといえるだろう。

東海岸にはワシントンやニューヨークが存在し、全米が射程に入ることでインパクトが強いことは理解できるとしても、7月末の推計飛距離がさほど注目されなかったのはなぜか。言い換えればなぜ昨年11月末の際は、東海岸も含めた全米が射程に入ったという報道が内外で大々的になされたのだろうか。

筆者は一連の報道に奇異な印象を持ったので、直後の授業で事例問題の題材として用い、学生たちに「東海岸射程」報道が大きく取り上げられた理由を考えさせた。すると何人かの学生が、「米軍による先制攻撃を正当化するため」と指摘していた。(これは筆者が想定していた理由と同じものだった。)

この後の北朝鮮政府の反応が興味深かった。報道から1週間後の12月6日に、北朝鮮政府は自ら国連のフェルトマン事務次長(政治局長)を招き、平壌で朴明国(パク・ミョングク)外務次官と会談したのである。この展開は、学生たちも指摘した米軍による先制攻撃を恐れた結果だったのではないか。

いずれにせよ米軍による先制攻撃は現実的な政策オプションにはなり得ず、また北朝鮮による先制攻撃も彼らが合理的に判断する限りにおいて、現実的とはいえない。恐らく本年中に北朝鮮は、大気圏再突入技術も含め1万km以上の射程を持つ長距離核ミサイル開発を完成させるだろう。現段階においては彼らが核ミサイル能力を保有していることを前提として、米朝対話の道を探ることが現実的な選択肢なのかもしれない。