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総合政策学部 総合政策学科

日本サッカーとソフトパワー

2018.08.20
総合政策学部教授 永澤雄治

 2018年のワールドカップも終了した。予選3試合で全敗するとも予想されていた日本代表は、予選第1試合であのコロンビアに勝ち、決勝トーナメント第1回戦で2点を先制し、ランキング3位のベルギーを追い詰めた。

 J.ナイ(国際政治学)は、軍事力と経済力を国家のハードパワーとする一方で、他国から共感と支持を得られる能力としてソフトパワーの重要性を説いた。ナイは、その後の論稿でハードとソフトを組み合わせたスマートパワーを提唱しているが、ここで話題にしたいのは日本のサポーターの習慣が、ソフトパワーとして機能しているということである。

 1998年のフランス大会から日本代表はワールドカップに出場している。ということは、日本のサポーターも大会会場に足を運んでいるわけである。日本代表のサポーターは、国内の試合でも終了後の清掃を習慣化していた(試合後の清掃活動は、サポーター集団の「ウルトラスニッポン」が1990年代に始めたとされている)。彼らにとっては通常の活動をフランス大会でも行ったわけだが、その行為が海外のメディアから注目され、当時から話題となり、代表チーム以上に称賛されていた。(各会場に清掃員がいるにもかかわらず、自分たちのごみを拾うという「美徳」は、そもそも彼らの発想にはなかったのだ。)
 
 今回のワードルカップでもその行為は称賛されていたが、特に海外のメディアが驚いたのは、惜敗したベルギー戦後、泣き出すサポーターもいた中、彼らの習慣は変わらず行われたことである。USA TODAYは、「敗戦による傷心状態にあった日本のファンが清掃を行ったことはとても素晴らしい!」と称賛した(USA TODAY, July 2, 2018) 。

 注目したいのは、セネガルのサポーターたちも、日本のサポーターを見習い、試合後の清掃を行っていたという報道である。これは、日本人の「善き習慣」がソフトパワーとして一定の影響力を及ぼしたことを示すものであろう。この点について、The Guardianは「試合後の清掃という日本のファンによる定番の習慣はトレンドとなり始めた」と記した。(The Guardian, ,20 Jun 2018)

 また日本代表チームのロッカールームも話題になった。ベルギーとの試合後のロッカールームが清掃されており、ロシア語で御礼が書かれたカードと青い折鶴が置かれてあったそうだ。FIFAのジェネラルディレクターを務めるPriscilla Janssens(プリシラ・ジェンセンズ)さんは、日本代表が使用したロッカールームの写真をTwitterに投稿し、「すべてのチームにとって模範!日本チームの仕事ができて光栄」とツイートした。(プリシラさんのTwitterからは既に削除されてしまったが・・・。)

 帰国後の記者会見で、ベルギー戦後のロッカールームのことを尋ねられた長谷部選手は、「チーム・スタッフの方が、毎試合後、やって下さっていた」と丁寧な口調で話していた。日本的習慣を海外でも実行したサポーターとチームは称賛を浴びたが、日本のソフトパワーは、「おもてなし」、「もったいない」、漫画、アニメ以外にも実はたくさんあるのだろう。我々自身は、意外にもそれに気づいていないだけなのかもしれない。