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総合政策学部 総合政策学科

地球環境問題と総合政策学部の使命

2019.11.12
総合政策学部教授 秡川信弘


 “Policy Management”は英語表記の「総合政策」です。できるだけ英語にかかわりたくない私の感覚では“Policy”と“Management”を合わせても、出てくる日本語はせいぜい「政策管理」くらいです。いったい、どういうわけで「総合政策」が“Policy Management”になるのでしょうね(笑)。そんなことを考えながら、英語の辞書(英和辞典)を手に取ってみました。

 その英和辞典によれば、(1)Policy の訳語は「policy1 1 (政治・政党・為政者・事業家などの)政策、方策、方針。2 やり方、手段。3 a 賢明、機略、知恵。b 《古》抜け目なさ、狡猾。4 《古》政治、政治形態。 5 《スコット》(田舎屋敷周辺の)遊園。Policy2 1 a 保険証券。b 保険契約。2 a 《米》(場末などで行われる)回転抽選器から出る数に賭ける一種のばくち。b number 7」。
 また、(2)Management の訳語は「1 a 取り扱い、処理、統御、操縦、経営、管理、支配、取締まり。b 経営 [管理] 力、経営の手腕 [腕前]。2 a [集合的] 経営 [管理] 者(たち)。b 経営幹部、重役会、経営者側、会社。3 やり繰り、掛引き、術策。4 《医学》(疾病・健康などの)管理」とあります。

 つまり、私が唯一の日本語訳と思っていた「政策管理」は“Policy Management”が含んでいる幅広い意味群中のたった一つの断片にすぎないようです。「総合政策」に“Policy Management”という英語に読み替えた英語が得意な方の脳裏にはパチンコの出玉を操る技能の研鑽なども学修課程(もちろん、その場合は講義以外の学修時間となるのでしょうが)に収められていたのかもしれませんね。道理で、そちらの方面に熱心な学生さんたちが少なくなかったはずです(苦笑)。

 ところで、“business-as-usual” という言葉をご存知でしょうか。スエェーデン人の環境活動家グレタ・トゥエンベリ(Greta Thunberg)さんが、今年9月23日に開催された「国連気候行動サミット」でのスピーチの際に用いた言葉(“How dare you pretended that this can be solved with business-as-usual and some technical solutions.”)です。この“business-as-usual” は、(都合の悪いことをはぐらかす)「いつものやり方」と訳す方が正しいのかもしれません。しかし、私は敢えて誤訳であることを承知の上で、「これまで通りのビジネス」と解釈させていただきました。

 太陽エネルギーによる大気・海洋循環システムをコンピューター上に再現した気候モデルや世界各地の観測データに基づいてスーパーコンピュータが出した結果によれば、臨界点(グレタさんのいう1.5℃)を超える気温上昇が21世紀後半を生きる人類に悲劇をもたらす危険性は無視できるほど低くはないようです。彼女がニューヨークに招かれた背景には、そのリスクを理解しながら、実効ある対策を進めることができない国連本部の焦りもあったのではないかと思われます。

 彼女は言葉の力で焦燥感を既存のパラダイムごと吹き飛ばそうと試みます。つまり、“They also rely on my and my children’s generation sucking hundreds of billions of tonnes of your CO2 out of the air with technologies that barely exist.”, “But the young people are starting understand your betrayal...and change is coming, whether you like it or not.” ☞ 「その解決策(They)は将来世代が稀少技術を用い、あなた方が排出した何千億トンものCO2を吸収することを前提しています。」、「しかし、若者たちは虚構を見破ってしまいました。あなた方(you)の好み(のシナリオ)とはかかわりなく、変革(の時期)が近づいています。」

 その率直な表現は「踊る」会議を大切に想い、経済成長を信奉している「ユー」には理解されず、彼女の罹患歴等を根拠に無視したり、蔑視することがネット上で推奨されていたようです。しかし、肝心な点は“CO2”を劇的に減らす新たな“techonology”の可能性を新奇(!)起業の共同経営者となるべき若者たちに呼びかけたことでしょう。“you”への明示的メッセージの言外にある、黙示録として語られた含意に気づいていただければ幸いです。とはいえ、稀少技術や未普及技術を使い、「反常識」的なビジネス(business-as-unusual)で環境負荷型のライフスタイルを変えるってすげぇハードル高そうですね。でも、そんな技術の開発をベースに商売をして(理解されない“goods”販売で高収益!?)、画期的な環境ビジネスを起こすって、なんか挑戦的で楽しそうじゃないですか?

 面源負荷型「公害」の典型ともいえる温暖化問題を解決するには、AIなどの新技術を活用して歴史的に検証された技術を使いこなす(management)とともに、多様な価値観を反映して複雑に絡み合った利害関係を解きほぐしていくズル賢さ(policy ⇒ メタ技術)が求められるように思います。そんな“Policy Management”を専門家として実行する際に求められる知識や技能の修得がこの学部 (Faculty of Policy Management) に期待された使命ではなかったのでしょうかね?