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総合政策学部 総合政策学科

日本国憲法前文を自分のことばで

総合政策学部准教授 馬内里美


日本国憲法前文を授業で暗記させられたと、何度か聞いたことがある。だが、私にはそのような機会もなく、後ろめたさを感じていた。憲法といえば九条であり、ほかは断片的で、よく知らないままである。

二〇一五年五月、政府がいわゆる「戦争法案」を国会に提出したころ、私は気が滅入っていた。一、二年生対象の基礎ゼミナールで、学生には視野を広げてほしいという思いから、さまざまな話題を提供している。「戦争法案」は取り上げるべき話題であるが、なにか希望がもてるような話題を学生に提供したい、というよりむしろ、私自身が求めていた。

そのときに思い出したのが、日本国憲法前文である。二〇一三年初夏に取り上げたことがある。そのころ、口語訳日本国憲法なるものが話題になっていた。憲法ゼミに入ったばかりの大学生、塚田薫さんが、友人から「憲法ってなに?」と聞かれ、話し言葉で言い換えたのをきっかけとして、全条文を口語訳しネット公開し大反響を呼んだものである。これは、『日本国憲法を口語訳してみたら』として出版されている。

堅苦しく敬遠しがちな憲法の文章だが、「俺たち」で始まる「ため口」語訳は、学生たちにとっても身近に感じられるだろう。日本国憲法前文の正文と「口語訳」、また比較のため自民党憲法改正草案の前文も用意した。学生たちと一緒に詳しく比較してみると、相違がよくわかるものだと思った。

今回はさらに学生たちに、憲法前文をわかりやすい言葉で書き換える課題を出した。一読だけでは、堅苦しい表現が続く正文は、読みやすさでは自民党憲法改正草案と比較して明らかに分が悪い。また、「口語訳」の印象を尋ねると、「チャラい」という。「口語訳」と改憲草案との読み比べで違いが明らかになるものの、もっと正文とじっくり向き合うべきだ。身近に理解するためには、各人がそれぞれ自分の納得のできる言葉を用いて言い換えることが良いのではないか。

私も言い換えを試みた。なるべくわかりやすい表現を目指し、小学校高学年の児童を念頭においた。残念ながら、ぎこちない文章になってしまったが。学生たちも、難解な言葉を易しい言葉に言い換えながら、正文に向き合った。

私も最後に口語で一言。

訳読って今じゃ古くさ!って思うかもしれないね。でも、憲法前文は、訳読ってゆーか、精読っていって、詳しく調べながら読む価値あるよ。精読の練習にお勧めの教材だよ。