大逆転のドラマ
総合政策学部准教授 河本 進
第98回全国高校野球選手権大会の決勝戦が8月21日に阪神甲子園球場で行われ、栃木県代表の作新学院が南北海道代表の北海を7対1で破り、深紅の大優勝旗を手にした。作新学院高校の全国制覇は八木沢荘六・加藤斌を擁して史上初の春夏連覇を達成した第44回大会以来54年ぶり2度目のことである。
「野球は9回2アウトから」とか「野球は筋書きのないドラマだ」とか、野球には「勝負は下駄を履くまでわからない」ことを表す常套句が数多く存在する。主題歌が高校野球の応援歌の定番として使われているアニメ『タッチ』の原作漫画の作者のあだち充は、高校野球をテーマとした別作品『H2』で、主人公の国見比呂(国見くんだったのですね!)が,劣勢のチームに加勢するために試合に参戦するシーンで
「タイムアウトのない試合のおもしろさを教えてあげますよ(※)」
というセリフを使っている。野球には制限時間がないため、時間をコントロールする戦略が取れないのである。その結果、最後のアウト1つを取るまでは何が起こるか分からないゲームになる。これが野球のおもしろさでもあり、怖さでもある。
今年の甲子園でも2回戦の青森県代表の八戸学院光星と愛知県代表の東邦の試合で印象的な逆転劇があった。この試合は7回表終了時点で八戸学院光星が7点リードをしていたのだか、東邦は諦めずに徐々に追い上げていき、9回裏に5点を取って見事サヨナラ勝ちを収めた。また、大逆転といえば地方大会になるが外せない試合がある。それは、2014年の石川県予選決勝戦の星稜と小松大谷の試合である。この試合は8回終了時点で小松大谷が8対0とリードしていた。この試合は5回終了時点に既に8対0となっていたので、準決勝までならば7回終了時点でコールドゲームにより試合終了であったが、決勝戦であったために9回まで試合が行われたのである。星稜高校は8回まで2安打で完封されていたにもかかわらず、9回裏に最後まで諦めずに攻撃をして9得点を奪う空前絶後な逆転サヨナラ勝ちを収めたのである。不思議なもので、この対戦は翌年の準々決勝でも組まれて、今度は9回表終了時点で0対3とリードされていた小松大谷高校が9回裏に4得点を奪うサヨナラ勝ち、見事リベンジを果たしたのである。まさに筋書きのないドラマである。
このような大逆転のドラマを起こしたのは最後まで試合を諦めなかった姿勢である。学生諸君には、今は上手くいかないことがあったとしても、目標に向かって諦めずに取り組んでいって欲しい。
※ タイムアウトとは「スポーツの試合で、作戦や休息などのためにとる中断時間(広辞苑)」であるが、ここでは、タイムアウトを試合時間という意味で使っている。