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総合政策学部 総合政策学科

東京から仙台に来て

2018.07.22
総合政策学部准教授 久保田 茂裕
 
 4月から本学で働き始めて、もう少しで4ヶ月になる。物心がついてから高校までは、石巻市で暮らし、仙台市には、大学に入学してから、博士課程を終えるまで9年間程住んでいた。その後、東京都にある民間のシンクタンクに務めて、11年間、東京圏内で過ごし、今回、縁があり、再び仙台市に戻ってくることになった。
 11年前、就職が決まり、仙台市から東京都へ移ったときの高揚は今でも覚えている。住む場所として選んだのは、勤務先の近くの八丁堀だった。八丁堀は、東京駅まで直ぐに歩いて行くことができる場所にある。この場所を選んだのは、慣れない東京暮らしなので、会社が近い方が良いと考えたことと、折角、東京に来たのだから、都会の中心に住んでみようという思いがあった。場所が場所なので、物件は家賃をそれなりに支払う一方で、居住空間といえるものは殆どなく、ベットと机を置いたら、全てが埋まってしまう位のものである。ただ、博士課程の頃はお金がなく、共同の風呂とトイレと狭い部屋の寮で生活していたので、私にとっては、居住空間が狭いことは問題がなかった。それより、通勤ラッシュには合わなくて良いし、銀座や有楽町まで歩いていけることの楽しさが大きかった。また、夜中や休日には、外に出ると、昼間は多くいたビジネスマンもいなくなり、静かな高層の建物だけが残っていて、現実から少し離れた感覚を味わうことができた。その頃の高揚感があり、今でも東京駅周辺をただ歩くことが好きである。
 その後、結婚をして、子供が生まれ、家族が増えるにあわせて、3回引っ越しをした。今回、仙台市に引っ越してくるまでは、つくばエクスプレス沿いの六町で5年間暮らした。ここは、会社までは、40分程度、通勤ラッシュは時間帯によってあるけれども、適当な居住空間があり、徒歩圏内に病院、学校、スーパー、公園があって、子供が小さいうちは、丁度良い環境であったように思う。
 そして、今回、再び仙台市で生活できる機会を得た。戻ってきて、改めて気がつくのは、自然が身近にあることである。大学では、大学のキャラクターにもなっているツバメが飛び交っており、ツバメの巣も見ることができる。小学生の頃、私の通っていた小学校にも、春になるとツバメが巣を作っていたことを思い出した。また、大学から家に帰ろうとすると、カエルがゲロゲロと鳴く音や虫の音が聞こえてくる。
 六町に暮らしていた頃、子供がアメンボとは何かを聞いてきたので、子供にアメンボを見せてやろうと、探してみたことがある。私の感覚では、アメンボは、雨が降ったあと、水溜まりで、簡単に見つけることができるものである。六町も都内とはいえ、畑や草むらもあるので、いるものと思っていた。しかし、全く見つけることができずに、もう、しばらくアメンボをみていないことに気づかされた。ここ仙台市では、公園を散歩していると、アメンボを見つけることができた。オタマジャクシも沢山いた。子供の本に載っていた春に咲く野花を、子供と一緒に殆ど見つけることができた。仙台は、自然と都会とのバランスが良いように思う。
 蛇足だが、東京都での生活では、アメンボを見ることが出来なかったが、蝉の観察をすることはできた。丁度、7月のこの時期に、住居の近くの公園で、沢山の蝉の幼虫がせっせと土の中から出てきて、公園の木で羽化をする。これまで、蝉の抜け殻は見たことがあっても、蝉の幼虫をみたことがなかった。夕方から夜にかけて、木に上って行き、夜に羽化をして、羽を乾かして広げる。恐らく、東京都では、アスファルトが敷き詰められて、適当な土のある場所が少なく、蝉が卵を産むことができる場所が限定されてしまうのであろう。自然が少なくなった場所でも、生物が繁殖しようとしている力強さを感じる一方で、都会の区画に合わせて密集せざるをえない不自然さも同時に感じる。