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総合政策学部 総合政策学科

#Me Too運動とフラワー・デモ

2019.7.25
  総合政策学部准教授 大野朝子
 
 中学生の頃に映画鑑賞に目覚めて以来、ハリウッド映画は今まで浴びるように観てきた。2年前に、ハリウッドの女優たちにハラスメント被害を告発されたプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが手がけた映画、例えば『パルプ・フィクション』、『恋に落ちたシェイクスピア』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』などはお気に入りの作品だった。しかし、ハラスメントとなると、話は別である。アメリカの#Me Too運動の様子をニュース映像で見たとき、私の頭の中はクエスチョン・マークでいっぱいになった。というのも、私の専門は現代アメリカ文学ということもあり、一時期アメリカのフェミニズム運動にハマっていて、熱い思いで関連図書のページを繰っては、海の向こうの活動家たちの勇気と熱意に感銘を受けていたからである。「フェミニズム運動が盛んな国」のイメージと、映画界でのハラスメントの横行が頭の中で結びつくまで、しばらく時間がかかった。
 その後も、ニュースでアメリカの#Me Too運動の話題を何度も見かけたが、忙しさにかまけて、自分から追いかけることはなかった。しかし、同時期に、どうしても見逃すことができない国内のニュースがあった。ジャーナリストの伊藤詩織さんの事件である。「いったい何があったんだろう」「レイプ・ドラッグって何?」「顔出しの実名で被害を訴えているけど、大丈夫なんだろうか」。ニュース映像を見て、私は大いに混乱してしまった。目が離せず、2017年の10月に彼女の著書『Black Box』が発売された時は、即座に購入した。しかし、英語で言うところのchickenの私は、その本をずっと本棚にしまったまま、1年以上過ごしてしまった。性暴力被害、という生々しくて痛々しい現実と直面することに戸惑いがあり、どうしても手が伸びなかったのである。
 今年のゴールデンウィークは長期の休暇が取れる、ということで、少し余裕ができたから、連休中は性暴力被害について勉強しよう、と心に決めた。正直なところ、とても辛かったが、被害者の体験記を何冊も読んだ。被害に遭われた方は私の何百倍も辛い思いをされているだろう。
 そうした中、東京で性暴力に反対する「フラワー・デモ」が行われることを知った。これもまたニュースで見るだけだったが、6月には仙台でも開催されることがわかり、いてもたってもいられず、一人で公園に向かった。呼びかけ人は仙台市内の大学2年生だという。実際に行ってみると、想像していた「デモ」とは違い、参加者で自由に意見を言う場になっていた。公園の一角で、みんなの前で話したい人が、自由にマイクをとって、前に出て個人の経験を語る。デモ行進のようなことは一切しない。
 前に出て、勇気を出して語った参加者の体験は、想像を絶する内容だった。「性暴力は身近な人が加害者になる」、「家庭が必ずしも安全な場所とは言えない」、「性的な被害は人に話せない」、そのようなことが頭に叩き込まれた。
 今まで声を上げることをためらっていた人も、自由に告白ができ、周囲と問題意識を共有できる…そのような場所はこれまでなかった。しかも、男性の参加者も多かった。私が尊敬する「勇気のある活動家」は海の向こうではなく、すぐ近くにいる存在で、しかもとても若い方だった!呼びかけ人の女性は、エネルギーのかたまりの超行動派、というよりは、とても落ち着いていて、知的で物静かで誠実な人柄、という印象だった。彼女は今、実名で活動している。とてつもない勇気の持ち主で、心から尊敬する。悲しくて情けないことに、活動に対し、誹謗や中傷も少なからずあると想像するが、彼女たちの行いはすでに多くの人を救っている。デモは毎月11日に行われているが、参加者も着実に増えている。これからもたくさんの人にフラワー・デモの意義を知ってもらい、問題意識を共有してほしいと願う。